クローゼットの扉を開けたとき、目に入るのは、たいてい「掛かっている服」です。
けれど、少しだけ視線をずらしてみてください。
服の下に、ぽっかりと空いた足元。
ハンガーポールの上に残された、天井までの空間。
奥のほうで、暗くなったまま使われていない奥行き。
クローゼットの中には、掛けていない場所が、思いのほかたくさん眠っています。
その空いた場所を使いきれていないのは、収納が下手だからではありません。
ただ、そこに「区切り」がないだけなのです。
今日は、クローゼットのスペースを区切って、使いきるための工夫をご紹介します。
掛け方を変えるのではなく、空間そのものに線を引いていく。
そんな視点で、ご自宅のクローゼットを見直してみていただけたらと思います。
クローゼットが使いにくいのは、区切りがないから
クローゼットの中が使いにくいと感じるとき、その原因はたいてい「大きすぎる空間」にあります。
区切りのない広い空間は、一見すると自由に使えそうに思えます。
けれど実際は、どこに何を置いていいかが決まらず、置いたものは動いてしまい、上に積み重なり、やがて奥のものが見えなくなる。
自由すぎる空間は、使いこなすのがいちばん難しいのです。
たとえば、引き出しの中を思い浮かべてみてください。
仕切りのない引き出しは、開けるたびに中身が動いて、ペンと輪ゴムと小銭が混ざり合っていきます。
けれど、小さなトレーで区画を作ってあげるだけで、物は動かなくなり、住所が生まれます。
クローゼットも、まったく同じです。
広い空間を、いくつかの小さな空間に分ける。
それだけで、物には居場所が生まれ、居場所が生まれると、戻すのが自然になります。
区切るというのは、物を制限することではありません。
空間に、役割を与えることです。
この棚は帽子の場所。
この足元はバッグの場所。
この奥はオフシーズンの場所。
そんなふうに、ひとつひとつの場所に役割が決まっていくと、クローゼットは「詰め込む場所」から「置き場所のある場所」へと変わっていきます。
区切りは、収納の技術というより、空間との向き合い方かもしれません。
まずは扉を開けて、「いま、何も置かれていない場所はどこだろう」と眺めてみる。
そこから、クローゼットの見直しは始まります。
そもそもお部屋にクローゼットがない場合は、「クローゼットがない部屋の、衣類収納アイデア」をご覧ください。
上の空間を区切る ―― 棚板・吊り下げシェルフ

クローゼットの中で、いちばん忘れられているのが「上」の空間です。
ハンガーポールの上には、たいてい枕棚が一枚。
その棚の上に、季節家電の箱や、旅行バッグが、ぽつんと置かれている。
棚から天井までは、まだ30センチ、40センチと余っているのに、そこは長いあいだ、空白のままになっています。
上の空間を使いきるために取り入れたいのが、棚板や積み重ねられるラックです。
枕棚の上にコの字型のラックをひとつ置くだけで、棚は上下二段に分かれます。
下の段には普段使うもの、上の段には年に数回のものを。
一段増えるだけで、その棚は「置き場所」から「収納棚」へと変わります。
選ぶときの目安は、棚から天井までの高さを測ってから買うこと。
高さが余りすぎると空間が無駄になり、高すぎると入りません。
メジャーで一度測っておくだけで、買い物の失敗がぐっと減ります。
もうひとつ、掛ける服の上の空間には、吊り下げシェルフという選択肢もあります。
ハンガーポールに引っ掛けて、布製の棚を垂らすタイプの収納です。
畳んだニットやTシャツ、バッグなどを、段ごとに分けて入れられます。
工具も組み立ても要らず、掛けるだけで完成するのが気軽なところです。
上の空間は、手が届きにくい分、つい後回しにされがちです。
けれど、使う頻度の低いものの居場所としては、これ以上ふさわしい場所はありません。
「よく使わないものほど、上へ」。
その原則を持っておくと、手の届く高さに、本当に必要なものだけが残っていきます。
下の空間を区切る ―― ケース・かごで足元を使う
上の次は、足元です。
シャツやブラウス、ジャケットのような丈の短い服を掛けると、その下には必ず空間が生まれます。
床から60センチ、70センチ。
決して狭くはない空間が、多くのクローゼットで、そのまま空いています。
ここを使いきるために役立つのが、収納ケースやかごです。
引き出し式の収納ケースを置けば、畳む服やインナー類の定位置になります。
かごを並べれば、バッグや帽子、洗濯前の衣類を、ざっくりと放り込める場所になります。
大切なのは、「床に直接置かない」こと。
床に物を直接積むと、掃除のたびに動かす必要があり、いつのまにか「動かさないもの」になってしまいます。
ケースやかごに入れて、ひとつの塊にしておくと、掃除も移動も、すっと軽くなります。
選ぶときの目安は、服の裾までの高さを測って、それより少し低いものを選ぶこと。
ぴったりの高さを狙うと、服の裾がケースに触れてシワになることがあります。
数センチのゆとりを残すと、服も傷まず、出し入れもしやすくなります。
ケースの色は、白・グレー・ベージュ・木目のいずれかで揃えると、クローゼットの中が落ち着きます。
足元は、視界の下にある分、多少雑然としていても気づかれにくい場所です。
だからこそ、ここを整えておくと、クローゼット全体が「隅々まで手が届いている」感覚に変わっていきます。
奥行きを区切る ―― 手前と奥に役割を持たせる
クローゼットの空間は、上下だけではありません。
もうひとつ、見落とされがちな方向があります。それが「奥行き」です。
押入れを改装したクローゼットや、ウォークインクローゼットの一部には、奥行きが80センチ、90センチとある場所も少なくありません。
そんな深い空間で、手前だけがぎゅうぎゅうに詰まり、奥は暗いまま、というのはよくある光景です。
奥行きを使いきる鍵は、「手前と奥に、違う役割を持たせる」ことです。
役割を分けるために、まず必要なのが、前後を区切る仕切りです。
奥行きのある空間には、キャスター付きのワゴンや、引き出せる収納ケースが向いています。
奥に押し込んでも、引けば手前に出てくる。
この「引き出せる」という一点があるだけで、奥のものは死蔵されなくなります。
奥行きの浅いケースを前後に2列並べる方法もあります。
手前の列には、今よく使うもの。
奥の列には、しばらく出番のないもの。
前後で中身の性格を分けておくと、手前を動かすだけで奥にアクセスできるようになります。
ここで大切なのは、奥に入れるものの「顔ぶれ」を決めておくことです。
とりあえず奥に押し込む、という使い方をすると、奥は「開かずの間」になってしまいます。
オフシーズンの衣類、来客用の寝具、思い出の品。
「今は使わないけれど、手放さないもの」という共通の性格でまとめておくと、奥は静かな保管庫として、きちんと機能します。
奥に収めるものには、不織布カバーや布製の収納ボックスをかけておくと、ほこりや湿気から守れます。
なお、季節ごとに手前と奥を入れ替える方法については、 「クローゼットが2倍使える、ハンガー収納術6つ」でも 触れています。
奥行きは、見えないだけで、確かにそこにある空間です。
一度そこに線を引いてしまえば、クローゼットの容量は、思っていたより大きかったのだと気づくかもしれません。
小物を区切る ―― バッグ・帽子・ベルトの定位置

クローゼットの中で、いちばん迷子になりやすいのが「小物」です。
バッグ、帽子、ベルト、ストール、手袋。
どれも掛けるには小さく、畳むには形が崩れやすく、置き場所が決まらないまま、棚の隅や引き出しの奥に散らばっていきます。
小物こそ、区切りが必要なものたちです。
バッグは、立てて区切るのがおすすめです。
棚の上に仕切りスタンドを置いて、バッグを一つずつ立てていく。
書類をファイルボックスで立てるのと、同じ発想です。
立てると、どのバッグがあるかがひと目でわかり、取り出すときに他のバッグを崩さずに済みます。
型崩れしやすい革のバッグには、中に小さな詰め物を入れておくと、形が保たれます。
帽子は、重ねずに、ひとつずつ分けて置くのが基本です。
浅めのかごに一つずつ入れるか、フックに掛けて吊るす。
重ねてしまうと、下の帽子の形が崩れ、結局いちばん上のものしか使わなくなります。
ベルトやストールのような細長いものは、吊り下げるのがいちばん扱いやすい方法です。
S字フックやベルトハンガーにかけておくと、絡まらず、一目で選べます。
小物の区切りで意識したいのは、「種類ごとにまとめる」こと。
バッグはバッグ、帽子は帽子、ベルトはベルト。
同じ仲間を同じ場所に集めるだけで、探す時間はぐっと短くなります。
仕切りスタンドやかごは、100円ショップでも手に入るものが増えています。 まずは気軽に試してみたいときは、 「【ダイソー・セリア・キャンドゥ】100均で叶える、小物収納の工夫7選」も 参考になるかもしれません。
小物は、暮らしの中でいちばん「使う直前に探すもの」です。
出かける直前、玄関に向かう数分の中で、さっと手に取れる。
その小さなスムーズさが、朝の気持ちを、思いのほか軽くしてくれます。
区切りすぎない ―― 動かせる余地を残す
ここまで、上を区切り、下を区切り、奥行きを区切り、小物を区切る。
そんな工夫をご紹介してきました。
けれど最後に、ひとつだけ。
区切ることには、実はもうひとつの側面があります。
それは、区切るほどに、動かしにくくなるということです。
棚を足し、ケースを並べ、仕切りを立てて、すべての場所に役割を決めていく。
その状態は、たしかに整っています。
ただ、暮らしは少しずつ変わっていきます。
服の量が変わる。
季節が巡る。
家族が増えたり、子どもが大きくなったりする。
そのたびに、きっちりと区切られたクローゼットは、少しずつ現実と合わなくなっていきます。
ケースがぴったり収まりすぎていて、新しいものが入らない。
仕切りが多すぎて、動かすのが億劫になる。
そんなふうに、整えたはずの仕組みが、いつのまにか窮屈さに変わってしまうことがあります。
だから、区切るときには、動かせる余地を少しだけ残しておく。
ケースとケースのあいだに、数センチの隙間。
棚の一段は、あえて空けたまま。
「まだ決めていない場所」を、ひとつだけ持っておく。
その余白が、暮らしの変化を受け止めてくれます。
区切りは、完成させるものではなく、育てていくもの。
きっちり区切るより、ほどよく区切る。
そのくらいの気持ちでいると、クローゼットは、いつまでも自分の暮らしに寄り添ってくれます。
なお、この記事では「掛けない場所」の使い方を中心にお話ししてきました。
掛ける服そのものの並べ方や、ハンガーの選び方については、 「クローゼットのハンガー収納実例|そろえるだけで見違えるコーデ術」 でご紹介しています。
あわせてご覧いただくと、クローゼット全体が より使いやすくなるかもしれません。
おわりに
クローゼットの空間を区切って、使いきる工夫をご紹介してきました。
上を区切る、下を区切る、奥行きを区切る、小物を区切る、そして区切りすぎない。
クローゼットが使いにくいのは、収納が下手だからではありません。
ただ、空間に線が引かれていないだけです。
線を一本引くたびに、そこには居場所が生まれます。
居場所が生まれると、物は自然と戻っていきます。
すべてを一度に区切る必要はありません。
まずは、扉を開けて眺めてみる。
「ここ、まだ何も置いていないな」と思う場所を、ひとつだけ見つけてみる。
そこに小さな線を一本引くところから、クローゼットは少しずつ変わっていきます。
ほどよく区切られた空間は、きっと、日々の支度をやさしく助けてくれるはずです。
