内見のとき、間取り図を見ながら「あれ」と思ったことはありませんか。
部屋の広さも、日当たりも、駅からの距離も申し分ない。
けれど、収納の欄に書かれているのは「押入れ」だけ。あるいは、何も書かれていない。
クローゼットのない部屋は、賃貸では決してめずらしくありません。
古い建物のワンルーム、和室が残る間取り、リノベーション前の1K。
住みはじめてから、服の置き場所に困った経験のある方も、きっといらっしゃると思います。
ハンガーに掛けたい服が、椅子の背もたれに積み重なっていく。
畳んだ服が、部屋の隅で山になっていく。
けれど、クローゼットがないことは、暮らしが整わない理由にはなりません。
掛ける場所は、あとから作れます。
畳む場所も、工夫次第で生まれます。
今日は、クローゼットのない部屋で、衣類をおさめていくためのアイデアをご紹介します。
賃貸でも試せるものを中心に選びましたので、ご自身のお部屋に合いそうなものから、ひとつずつ取り入れていただけたらと思います。
クローゼットがなくても、衣類は収まる
まず最初にお伝えしたいのは、道具の話ではありません。
考え方のお話です。
クローゼットのない部屋に住みはじめると、多くの方が、こんなふうに感じます。
「収納がないから、片付かないのだ」と。
けれど、実際のところ、クローゼットという設備が持っている機能は、そう複雑なものではありません。
掛ける場所があること。
畳んで置く場所があること。
扉で隠せること。
たった三つです。
そして、この三つは、それぞれ別の方法で用意することができます。
掛ける場所は、ハンガーラックで。
畳んで置く場所は、衣装ケースで。
隠すことは、布やカバーで。
クローゼットという「ひとつの箱」がないだけで、その機能そのものは、部屋の中に分散して置くことができるのです。
そう考えると、少しだけ気持ちが軽くなりませんか。
もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。
クローゼットのない部屋には、実は利点もあります。
扉の中に押し込めない分、持っている服の量が、いつも目に見えている。
見えているから、増えすぎたことにすぐ気づける。
気づけるから、手放すきっかけも自然に訪れる。
クローゼットがある部屋では、奥のほうで何年も眠っている服があっても、なかなか気づけません。
見えていることは、少し落ち着かないようでいて、暮らしを健やかに保ってくれる仕組みでもあります。
「クローゼットがないから、片付かない」のではなく、
「クローゼットがないから、こういう置き方をしよう」。
そんなふうに向き合いはじめると、部屋づくりは少しずつ楽しいものに変わっていきます。
ハンガーラックで「掛ける場所」をつくる

クローゼットのない部屋で、いちばん最初に用意したいのが「掛ける場所」です。
シャツ、ブラウス、コート、ジャケット。
畳むとシワになりやすい服は、掛けておくのがいちばん扱いやすく、朝の支度も速くなります。
そこで頼りになるのが、ハンガーラックです。
大きく分けて、二つのタイプがあります。
ひとつは、据え置きタイプ。
床に立てて使うもので、組み立てるだけで設置が完了します。キャスター付きのものを選べば、掃除のときにすっと動かせて、部屋の模様替えにも柔軟に対応できます。
選ぶときの目安は、耐荷重です。
コートや厚手のニットは、思っている以上に重さがあります。ひとり分の衣類をまとめて掛けるなら、耐荷重30キロ以上のものを選んでおくと、たわみや不安を感じずに使えます。
もうひとつは、突っ張りタイプ。
床と天井のあいだで固定するタイプで、壁を傷つけずに、しっかりとした強度が得られます。据え置き型よりも安定感があり、天井までの高さをまるごと使えるのが利点です。
上段と下段の二段構造になっているものを選べば、限られた面積で掛けられる量がぐっと増えます。
置き場所は、部屋のいちばん暗い壁面を選ぶのがおすすめです。
窓際や明るい壁は、部屋の印象を左右する場所です。そこに衣類が並ぶと、どうしても生活感が前に出てしまいます。
反対に、部屋の奥や、入口から見えにくい壁面にラックを寄せると、視界に入る回数が減り、部屋全体の落ち着きが保たれます。
直射日光を避けられるので、服の色あせを防げるという実用面の利点もあります。
掛ける場所がひとつできると、部屋の空気は驚くほど変わります。
椅子の背もたれや、ベッドの上に置かれていた服が、あるべき場所に戻っていく。
その変化を、いちばん最初に実感できるのが、ハンガーラックです。
ラックを置くと、その分だけ床の面積は減ります。
限られた広さの中で、ほかの家具や生活の場所とどう折り合いをつけるかは、「6畳1Kでもできる、賢い収納アイデア5選」でお話ししています。
あわせてご覧いただくと、部屋全体の配置を考えやすくなるかもしれません。
掛ける場所がひとつできると、部屋の空気は驚くほど変わります。
壁と柱を使う ―― 賃貸でもできる吊るす収納
ハンガーラックを置いても、まだ掛けたいものが残ることがあります。
明日また着る上着。
帽子やバッグ。
部屋着や、まだ洗濯しない一枚。
そんな「一時的に掛けておきたいもの」に役立つのが、壁を使った吊るす収納です。
賃貸で気になるのは、やはり壁を傷つけないかどうか。
けれど今は、跡が残りにくい方法がいくつも揃っています。
まず取り入れやすいのが、石膏ボード用のフックです。
細いピンで留めるタイプなら、穴は画びょう程度の大きさで済みます。数キロまで支えられるものもあり、上着一枚を掛けるには十分です。
壁に一列、二つか三つ並べておくと、それだけで小さな「掛ける場所」になります。
もう少し本格的に壁を使いたいときは、ディアウォールやラブリコという選択肢があります。
市販の木材の上下に取り付けて、床と天井で突っ張ることで、壁に柱を一本立てられる仕組みです。
その柱にフックや棚受けを付ければ、壁面をそのまま収納として使えるようになります。ネジは柱に打つので、部屋の壁は一切傷つきません。
木材はホームセンターで希望の長さにカットしてもらえるので、天井高に合わせてぴったり用意できます。
壁を使うときに意識したいのは、掛けるものを決めておくことです。
「とりあえず何でも掛ける場所」にしてしまうと、フックはあっという間に重なり合って、部屋の中でいちばん雑然とした一角になってしまいます。
このフックは上着、こちらは帽子、こちらはバッグ。
そんなふうに役割を決めておくと、吊るす収納は最後まで整った状態を保ってくれます。
壁は、床とちがって、まだ何も置かれていない広い面です。
そこに数か所の居場所をつくるだけで、部屋の使い勝手はもう一段変わっていきます。
畳む服は、積まずに立てる
掛ける場所ができたら、次は「畳む服」の置き場所です。
Tシャツ、ニット、部屋着、下着、靴下。
畳んで収める服は、掛ける服よりも数が多く、しかも扱い方で見た目が大きく変わります。
そこで頼りになるのが、衣装ケースです。
クローゼットのない部屋では、ケースが部屋の中に露出することになります。だからこそ、中身が見えにくい半透明か、不透明タイプを選んでおくと、部屋の印象が落ち着きます。
選ぶときの目安は、高さを揃えることです。
同じシリーズで積み重ねられるものを選ぶと、上面がまっすぐ揃い、天板のように使えます。その上に小さなかごを置いたり、観葉植物をひとつ飾ったりすれば、収納家具が部屋の一部として馴染んでいきます。
そして、中身の入れ方でひとつだけ意識したいのが、「積まずに立てる」ことです。
Tシャツやニットを平らに重ねると、下のものが見えなくなり、いつも上の一枚ばかりを着ることになります。
くるくると丸めるか、縦に細長く畳んで、背表紙のように並べていく。
そうすると、引き出しを開けた瞬間に、持っている服が一覧で見渡せます。
畳む服は、量が多い分、いちばん散らかりやすい場所です。
けれど「立てる」というひと手間を覚えてしまえば、その状態はしばらく崩れません。
引き出しの中を仕切る道具は、100円ショップでもひと通り揃います。
「100均で叶える、小物収納の工夫7選」でもご紹介していますので、よろしければご覧ください。
部屋になじませる ―― 見せる収納として成立させる工夫

クローゼットのない部屋には、ひとつ避けられない前提があります。
それは、衣類がいつも視界に入るということ。
扉を閉めれば隠せる、という選択肢がないため、収納そのものが部屋のインテリアの一部になります。
だからこそ、この章でお伝えしたいのは「隠す」ことと「なじませる」ことの、二つの方向です。
まず、隠す方法から。
ハンガーラックには、専用のカバーをかけるという選択肢があります。
上からすっとかぶせるだけで、衣類はほこりから守られ、視界からも消えます。就寝時や来客時に、部屋の印象をすっきりさせたいときにも役立ちます。
カバーを使わない場合は、リネンや綿の布を一枚かけるだけでも十分です。生成りやベージュの無地を選べば、部屋の色調を乱さず、柔らかな印象になります。
もうひとつが、なじませる方法です。
隠さずに見せるなら、視界に入る色を整えることが鍵になります。
- ハンガーを一種類に揃える(色も素材も統一する)
- 手前に掛ける服を、落ち着いた色にする
- 衣装ケースの色を、家具の色と揃える
- かごや布の素材を、部屋のトーンに合わせる
とくに効果が大きいのは、ハンガーを揃えることです。
形も色もばらばらのハンガーが並んでいると、それだけで視界がざわつきます。木製かグレーか白か、どれかひとつに統一するだけで、同じ服が掛かっていても、驚くほど落ち着いた見え方になります。
このあたりの考え方は、「クローゼットのハンガー収納実例|そろえるだけで見違えるコーデ術」でも詳しくお話ししています。
隠すか、なじませるか。
どちらが正解ということはありません。
来客が多いお部屋なら隠す方向が向いていますし、自分の好きな服を眺めるのが楽しい方なら、見せる方向で整えるのも素敵です。
クローゼットがない部屋の衣類収納は、片付けであると同時に、部屋づくりの一部でもあります。
その視点を持てると、収納を考える時間そのものが、少し楽しくなっていきます。
数を持ちすぎない ―― 場所が決めてくれること
最後にお伝えしたいのは、道具の話ではなく、量のお話です。
クローゼットのない部屋で衣類を収めていくと、あるところで必ず気づくことがあります。
それは、置ける量には限りがあるということ。
ハンガーラック一本に掛けられるのは、だいたい30着から40着ほど。
衣装ケースを三段積んでも、入る量は決まっています。
クローゼットのある部屋なら、扉の奥にもう少し詰め込めるかもしれません。
けれど、部屋の中に収納が並んでいる状態では、それ以上増やせば、そのまま部屋が狭くなります。
これは一見、不便なことのように思えます。
ただ、見方を変えると、場所が量を決めてくれているということでもあります。
ラックに掛けられるだけ。
ケースに入るだけ。
その線を、自分で引かなくても、部屋のほうが引いてくれる。
新しい一枚を迎えるときには、掛けられる場所を空ける必要がある。
そのとき自然と、しばらく着ていない一枚のことを思い出します。
服を減らしましょう、という話ではありません。
ただ、収納が見えている部屋では、持っている量と向き合う機会が、暮らしのなかに自然と組み込まれている。
クローゼットがないことは、少し不便で、少し正直な暮らし方なのかもしれません。
おわりに
クローゼットのない部屋で、衣類を収めていくアイデアをご紹介してきました。
掛ける場所をつくる、壁を使う、畳む服は立てる、部屋になじませる、そして量と向き合う。
クローゼットという設備がなくても、その機能は、部屋の中に少しずつ用意していけます。
はじめから完成させる必要はありません。
まずは、掛ける場所をひとつ。
ハンガーラックが一本立つだけで、椅子の背もたれに積まれていた服が、あるべき場所に戻っていきます。
その変化を感じてから、次の一手を考えても十分に間に合います。
収納がない部屋は、不便な部屋ではなく、これから自分でつくっていける部屋です。
少しずつ、ご自身の暮らしに合う形を見つけていけたらと思います。
